白鷺立つ

住田 祐『白鷺立つ』という小説を読みました。
千日回峰行と比叡山と皇室のクロスした場所の物語ですが、話題作だけあって充実した読書体験でした。

簡単に要約すると(ネタバレ)、後桜町天皇は桃園天皇の姉ですが、桃園天皇が22歳の若さで亡くなったとき、天皇の第1皇子がまだ5歳だったため、つなぎ役として即位します。未婚で、また子をもうけてはならないとされていたのですが、実は子を身籠ってしまった・・・というのがこの物語の発端です(作り話)。
当時、そのような理由で表に出せないやんごとなき身分の子供の多くは比叡山に送られ、僧侶として一生を送ることが多かったそうで、この小説の主人公「恃照」もそんな一人でした。

後桜町天皇



帝の子供ですから、事故死することのないよう特に気を配って育てられますが、あろうことか、長じて「千日回峰行」に挑戦したいと言い出します。
千日回峰行というのは、毎日連続して比叡山の峨々たる峰々を何十キロも歩き通す過酷な行ですが、途中で挫折した場合は自害することが定められており、そのための短剣とロープを身につけて出立します。
恃照は多くの反対を押し切ってこの危険な行に挑みます。
全ての行をやり切ると、「満行満阿闍梨」と呼ばれ、最高位の僧と認められます。

挑戦のクライマックスは「堂入り」で、これは九日間、飲まず食わず眠らず横になることも出来ないという極めて過酷な行ですが、その最後に立ち上がって堂内を3周するべきところ、恃照はあと一間(10歩)というところで転倒し動けなくなります。
本来なら行は未達、恃照は自害しなくてはなりませんが、比叡山側は帝の子供を殺すことはできないので、やむをえず新たに「半行満」という呼称を作って恃照を「半行満阿闍梨」と呼ぶことにしました。
これは彼にとって耐え難い屈辱となります。

一方、後桜町天皇は9年間の在位を経て後桃園天皇に譲位しますが、この天皇は病弱で22歳で亡くなり、その後を閑院宮家が襲います。
閑院宮に皇統が移ったわけですが、実は亡くなった後桃園天皇には女官との間に一子が出来ていて(ここも作り話)、これをよく思わない閑院宮側は女官とその子を殺害しようとします。
身の危険を感じ、またもやその子は比叡山に送り込まれます。
これが長じて恃照の弟子にして二人目のチャレンジャーとなって恃照に挑む帝の子供「戒閻(かいえん)」なのです。

(ふー、疲れた。この物語はこうした込み入った歴史的な背景を理解しないと読み進めないのが独特です)

戒閻は才能に溢れた傍若無人な若者で、恃照と激しく対立します。
多分、どちらも帝の子供として比叡山に幽閉されたまま一生を終えるのに我慢がならず、自分のアイデンティティを確立するために千日回峰行に挑戦し大阿闍梨になろうとするのですが、これは叡山にとっては迷惑この上のないことで、戒閻の挑戦を渋々認めた恃照は叡山の座主(代々皇族がなる)から激しく叱責され、頭に蝋を垂らされて蛇のような火傷跡が残ることになります。
それでも戒閻は千日回峰行に出立し、恃照の時よりはるかに過酷な時期を選びながら順調に、恃照以上に楽々と行をこなしていきますが、例の「堂入り」を通常の九日間にさらに一日追加して十日間行うと宣言し、周りを唖然とさせます。
戒閻は自分が恥さらしの半行満阿闍梨である恃照を完膚なきまでに否定し乗り越えなければ気が済まなかったのです。

しかし、さすがに人間の限界を超えたこの修行に耐えることはできず、彼は堂内を3周する途中で倒れ、息を引き取ります。
駆けつけた恃照はそんな戒閻の亡骸に肩を貸し、二人で静かに残りの周回を続けます・・・。

見事なエンディングだと思いました。
それにしてもこれが作者の処女作だそうですが、信じられないような完成度です。
調査だけでも常人のレベルを遥かに超えています。
心底驚きました。

なお、タイトルの「白鷺」というのは、白装束で叡山の森の中をいく千日回峰行者の姿を指しています。

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