『人はどう死ぬのか』
久坂部 羊『人はどう死ぬのか』(講談社現代新書)を読みました。
この人の本はこれで二冊目で、最初は『寿命が尽きる2年前』(幻冬舎新書)を読んで大変共感したことを覚えています。
書かれていることは前著と類似ですが、同様に論理明快で、大変納得して読み終えました。
大袈裟ではなく、死について書かれた本の中で最高ではないかと思うほどでした。
座右に置いて、常に読み返す価値があると思います。
一箇所、大変驚いた記述があったのでメモしておきます。
108ページからの「"エンゼルケア"という欺瞞」で、新米の医者だった著者が体験した死後処置についての記述です。
きちんと形を整えたら、看護師がWさんの髪を梳かし、時間をかけてファンデーションを塗り、口紅を塗って、頬にうっすら紅をさしました。 眉とアイラインを引くと、やつれていた顔がくっきりとし、生気を帯びた寝顔のようになります。
これで終わりかと思うと、看護師が下半身にまわり、腰を持ち上げて、私に新しいおしめを敷くように指示しました。Wさんの両脚を割るように開かせ、看護師が肛門に指を入れて、便を掻き出し始めたのです。
言葉を失っていると、看護師が私に指示しました。
「先生、下腹部をぐっと押してください。残っている便を掻き出しますから」
えーっと思いながらも、信頼できる看護師の言うことですから、素直に従います。ご遺体の腹部は柔らかく、薄い皮膚を通して腸の感触がわかります。
「まだ残っています。もっと強く」
「こう?」
「右から左へ、直腸から押し出す感じで」
「これでいい?」
聞きながら必死に押すと、顔から汗が滴り落ちました。
全部出し終えてから、陰部を丁寧に洗い清め、新しいおしめをつけて、最後は用意された白い死装束を着せました。
汚れ物を片付けている看護師に、私は少々戸惑いながら尋ねました。
「ここまでしなければいけないのかな」
ご遺体の腹を押して便を掻き出す行為が、あまりに凄惨に思えたからです。
青い顔の私を見て、看護師は思いを察し、諭すように答えました。
「ご遺体は、ご家族が見る最後の姿なんです。だから、お化粧もできるだけ綺麗にします。便が残っていると、あとで出てくることもあるんです。別れを惜しんでいる時に、不快な匂いがしたらだめでしょう。わたしは先輩のナースから、ご遺体に馬乗りになって腹を押せって教わりましたよ」
言葉を失いましたが、死のリアルな一面を知ることができてよかったと思いました。
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