『昭和16年夏の敗戦』

猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』を読みました。
太平洋戦争突入の直前に各界の若手エリートを集めて作られた「総力戦研究所」が模擬内閣を作って戦争突入のシミュレーションを行い、どのような状況になろうと日本は必敗するという結論を出していたにも関わらず、ほぼ同時的に進行した現実政治の世界では戦争に突入し、彼らの予言通り敗戦に至るという衝撃的な結末を迎えた、という史実を紹介した本。
生存者へのインタビューを含む丹念な調査に基づいて、何が起きていたのかを明らかにした力作と思いました。

内容を要約することはとてもできませんが、私の目に留まった点を少々。

彼らのシミュレーションで使われた数字(戦争遂行の経過に伴う国内石油備蓄量の推移)は実際に開戦時の判断に用いられ、開戦後三年経ってもまだ国内には石油があるのだから戦争を回避する理由とはならない、と開戦を後押しするために用いられるのですが、この数字は諸種の前提条件のもとで導き出されたものであり、それが前提と切り離されて数字として一人歩きする怖さを痛感しました。
そして、全ての会議は全会一致で天皇に開戦を進言するための辻褄合わせに使われていくのです。

昭和天皇は米国との戦争を避けたいと考えて、敢えて陸軍大臣の東条に首相をやらせ、東条も陛下の意を汲んで開戦阻止に動くのですが、結局軍部に押し切られてしまいます。
猪瀬氏はその理由として、統帥部(大本営)が内閣より強いという制度上の問題を指摘しています。シビリアンコントロールの問題です。そこに陸軍と海軍の対立が絡むと、誰にも解きほぐせない難問と化してしまうのです。

文庫本の巻末に、著者と石破茂との対談が収録されていて、その中で石破茂が菅直人首相(当時)が「防衛大臣って自衛官じゃないんだね」と言って周囲を絶句させたという逸話を紹介していますが、歴史を全く勉強していない人が首相になったりしてるんですね。
そういう石破氏も首相をやらせたら全然ダメだったから、あまり大きな口を叩かない方が良いですが。

研究所員の戦後についても記載あり、さすがにベスト&ブライテストとして全国から集められた者たちだけあり、亡くなった方を除き、多くの皆さんが各界の重鎮として活躍されていたのは壮観でした。
しかし、中には復員後官職に就かず世捨て人のような暮らし(碁会所のオヤジ)をしている人もいて、個人的にはそういう人に共感するところが大でした。

良い本だと思います。


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