明るいあきらめ
白石あづさ『逃げ続けたら世界一周していました』(岩波ジュニア新書)が面白かったです。
私はこの著者をまったく知りませんでしたが、こんな面白い人生を送っている人がいるんですね!
しかも若い女性!
びっくりしました。
この人、子供の頃より要領も運動神経も悪く、自分はこの世界に合っていないのではないかと疑いながら生きてきたそうです。
そして、「苦しい時には逃げる」ことに決め、旅行や登山をしてきたそうですが、27歳の時、勤めていた会社を辞め、世界一周の旅に出て「心の大掃除」をすることにしました。この本はその記録だそうです。
というと、最近よくある若い人の「自分探し」の一種と思いがちですが、それとはレベルが全く違います。
やっていることが桁違いで、例えばアフリカでは自分名義で借りたレンタカーが(別の人の運転で)蟻塚にぶつかると言う事故を起こしますが、逮捕されて牢屋にぶち込まれてしまいます。
そして大金を払えば釈放してやると脅されるのですが、そんな金はなく、裁判前なのに本物の刑務所に収監されてしまいます。
若い日本女性がアフリカの刑務所に一人ぶちこまれると聞くと、色々恐ろしいことを想像してしまいますが、実際には同房の女囚たちにとても親切にしてもらい、髪を整えてもらったり、マニキュアまでしてもらう歓待ぶりに彼女もこちらもびっくりです。
しまいには看守と一緒に房内でダンスに興じるとか、本当に世界は広いです。
白石さんは、このような体験を積み重ねることで、日本人の狭い了見を乗り越えていくのです。
私がハッとしたのは、最初の章を読んだ時でした。
中南米からメキシコを経てヒューストンに着いた白石さんは、ユースホステルに泊まります。
同室者は二人で、ハローと言っても挨拶なしです。
一人は「鼻ピアス姉さん」、もう一人は「ノーブラでパンツ一丁の巨大おばさん」ですが、本を読んでいるか寝ているかどちかで、数日間どこへも行かずに部屋にこもったままです。
やがて、パンツ一丁おばさんはガンで余命半年、鼻ピアス姉さんはおばさんの旅の付き添いをする医大生のボランティアだと言うことがわかります。
このおばさんは、ガンだから、家族がいないから、お金がないからと言ってあきらめず、人に頼ってやりたいこと(旅)を堂々としているのです。
自由ってこう言うことなんだ。
私は腰を痛めてから、気がついたら色々なことをあきらめていました。
こんなことができるわけない、とか、もし無理をして何か事故でも起こしたら批判される、とか、自分で自分を縛り、人生をつまらなくしていたようなのです。
でも、人に気を遣ってやりたいことを封印するのはせっかくの自由を捨てていることになる、そんな気づきをこの本は与えてくれました。
本書の最後は鴨長明の『方丈記』のインパクトについて書かれています。
白石さんにかかると、鴨長明は「広い家も人間関係も仕事もバッサリ断捨離し、ミニマリストとしてコンパクトハウスで暮らした人」となります。
そして『方丈記』は「ぼっち文学の最高峰」になります。
さらに、鴨長明の繰り出す絶望(ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず)の先には「明るいあきらめ」があると指摘していました。
明るいあきらめ・・・これだ、と思いました。
最近の私は、自分の置かれた現実は受容する他なく、それまで自分がやりたい/やれるはずだと思ってきたことをあきらめざるを得ないことに気づいてはいましたが、それを認めたくなくて、いつまでもウジウジ悩んでいました。
でも、ウジウジ悩むのではなく、今でも本当にやりたいことがあれば自由に取り組んでみて、無理そうなら明るくやめればいいのだ、と言うことです。
本書を読んだだけでこれだけ気づきを与えてもらえたのですから、白石さん自身が世界一周逃亡旅行でどれほどの気づきを得たか、想像にあまりあります。
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