『三体』を読みました
中国発の大ベストセラーSFと言われている『三体』を読みました。
続編を入れれば全部で三巻あり、合計売上が三千万部だそうです。確かに大ベストセラーです。
(以下ネタバレ)
地球外惑星人とのコンタクトものですが、face to faceでコンタクトするのは(多分)続編の方であり、第一作のこの作品ではまだそこまでは行きません。
その宇宙人が住む惑星は地球から四光年ほどの距離にあり、太陽に相当する恒星が三つあるという設定です。互いに引力を及ぼし合う星が複数あると、それらの動きは太陽のように単純ではなく、二つあれば連星系としてお互いの周りを回りますが、三つ以上では数学的な解はなく不安定になります。このためその惑星世界では<太陽>が多すぎて灼熱地獄になったり、逆に長い間姿を消すために氷結したりして、せっかく生命と文明が生まれても発展途上で消滅してしまい、これまでに二百回もそれを繰り返してきました。作品ではこの世界を「三体」世界と呼びます。
(こんな不安定な世界でなぜ人類をはるかに凌駕する科学技術が誕生したのか、謎ですが(笑))
そこに地球から宇宙探査のメッセージが届き、太陽系に知的生命が存在することを知った「三体」世界はこの夢のような安定した地球世界を攻略することに決め、彼らの科学技術の粋を集めた智子(ソフォン)という知能を持った陽子(プロトン)を地球に向け送り出します。智子は地球上の科学者に奇怪な幻想を見せることで、彼らの科学に対する信頼を失わせ、未来に対する希望を打ち砕こうとします。
そして、地球側では「三体」の侵略に応じて、彼らと手を組んでこの腐敗した地球文明を抹殺しようとするカルト集団が誕生し…
とまあこんな具合ですが、400ページ以上もあるこの作品を真剣に読むことは難しく、途中で本当に止めようかと何度も思いました。
上に述べたのはこの小説のいわば理屈にあたる部分で、ストーリーはこうした理屈を謎解きとして逆向きに展開しているため、初めて読む人は何が何だかわからず、おまけに登場人物の中国名が我々の知らない漢字で書かれていることもあって混乱してしまい、300ページ目あたりからようやく全体像が見えてくるまでは地獄の読書体験でした。
では300ページ以降は怒涛の面白さかというとそんなことはなく、最後まで不満だらけでした。要約すると、
- 登場人物が薄っぺらで感情移入できない
- 異星人の(優れているとされる)科学技術があまりに荒唐無稽で興醒め
- ストーリー展開に無理がある
印象としては、この作品はラノベや漫画くらいしか読まない(IQの低い←失礼!)読者や、空想的で現実逃避的なゲームの世界にのめり込んでいる人たちに喜ばれそうなものであって、まともな成人にはあまり受け入れられるものではない、というものです。
ではなぜあれほどのベストセラーになったのか。
一つ思い当たるのは、中国語の作品を読む膨大な中国人読者の数です。巨大な読書市場を背景にしての快挙だったのではないでしょうか。ヒューゴー賞などの欧米のSF文学賞を受賞しているのも、中国市場での大成功があってこそだと言いたいのです。
さらにその中国市場での大成功は、主人公の女性物理学者がかつて父(やはり物理学者)を文化大革命で殺されたという過去の持ち主で、当時はもちろん現在の中国社会の描写の中にも権威主義社会の重苦しさがそこかしこに表現されている点にあると感じました。その表現を中国人読者は支持しているのではないかということです。
その可能性はかなりありそうです。
しかし、そうした事情とは無関係な私は、この作品をあまり評価できませんでした。続編を読むことはないでしょう。
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