年寄りが片付けないわけ

ギプス生活も今日で五日目。
移動する先でやることをひとまとめにしておくなどの、物事の段取りはある程度慣れてきましたが、それでも大変であることに変わりはありません。今までのように出来ないことが多すぎるのです。

自分の性に合ってないがやむを得ないこととして、第一に挙げたいのは「片付かない」ことです。
気軽に動けないため、いつもリビングの大きなテーブルの自分の席か、自室のアーロンチェアか、そのどちらかにじっと座っていることが多いのですが、普段と違うのはその周囲が雑然としていて片付いていない点です。
いちいち運ぶのがしんどいので、使ったものをその辺に置くからです。

自室には壁一面にシステム収納家具が取り付けてあり、私の衣類は全てそこに収まるようになっています。
これとは別に、現在使用中の衣類は別のラックにぶら下げています。
それ以外に、巨大なベッドと電子ピアノ、ベッドサイドにおいてある小型のワゴン、そして二種類の健康器具(腹筋を鍛えるためのものとステッパー)が鎮座していますが、最近この辺りが大変なことになっています。

脱いだ衣類は、本来ならラックにぶら下げるか、洗面所にある洗濯物入れに直行するべきなのですが、それをするにはまずそこまで移動しなくてはなりません。
松葉杖だとそれが大変なので、ついそこらへんの健康器具やワゴンの上、時には床の上などに放り投げてしまいます。
結果、それらの上に脱いだ衣類が次々「堆積」し、どこに何があるのかわからなくなり、まだ着れるからと洗いに出さなかったものが取り出せず、仕方なく新しい衣類をシステム収納から引っ張り出し、かくてますます乱雑さに拍車がかかっています。

机の上も、本来なら本棚やキャビネに収納すべき物体がそのまま放置されていて、物を書いたりするスペースがほとんどなくなってきています。
代わりに置いてあるのは、ちょっと疲れた時に使った孫の手のような器具や靴下の片割れ(ギプスのせいで片足にしか履けず、片割れが机の上に溜まっている)、痒み止め軟膏や目薬、プロポリスのスプレー、ハッカ油のボトルなどの細々した薬品類、使い終わり洗濯しようと溜め込んでいるマスク、以前に読みかけたまま放置しているたくさんの本などです。
手の届く所に置いてあれば移動せずにリーチできるので便利なのですが、この乱雑さには心理的には耐えられなくなりつつあります、

そこで思い出したのは、あれほど綺麗好きで整頓が得意だった母が、晩年は本当に片付けなくなり、足の踏み場もないような環境で暮らしていたことです。
例えば、疲れるとその場ですぐ横になれるからという理由でリビングにベッドを置き、その横に小さなテーブルを置いて物を食べたりするのはそこでするようになりました。
そして、その周りにはありとあらゆる物が乱雑に積み重なっており、文字通り足の踏み場もない有り様でした。
姉が近所に住んでいて、本来なら母の面倒を見る立場にあったのですが、姉自身が病魔に冒されていた為それができなかったのです。
私が時たま新幹線で帰省すると、まずリビングの掃除から始めたのはそんなわけでした。
松葉杖生活になってみて、このようなライフスタイルにならざるを得ない理由がよくわかりました。
こまめに動くのはしんどくて、片付けるのは、ほとんど物理的に、不可能なのです。
整頓好きな母も辛かったことだろうと、今になって胸が痛みます。

さて、自分にも今起きているのと同様の事態が将来訪れるわけですから、対策をしておかなくてはなりません。
私はとりあえず、こんなことを考えました。

家の各所にある収納をあらかじめ自分の手元に引き寄せておくこと

これが出来れば、使い終わったものを足元に散らかしておかなくても、すぐにアクセスできる手元の収納に戻せば良いわけですが、でもどうやって?
その答えは、コンピュータのキャッシュメモリと同じことをすれば良い、です。
キャッシュメモリとは高速にアクセスできるメモリのことで、主記憶とは別に、CPUの近く(同じチップ内)に用意されるものです。
すぐに使われることがわかっているデータ(例えば実行中のプログラムなど)を主記憶からひとまとめにコピーしてきてここに置き、CPUはそれを読み出して高速で処理します。変更されたデータがあれば、適当なタイミングでまとめて主記憶に書き戻します。
今回の場合、具体的にはシステム収納のコピー、洗濯物入れのコピー、本棚のコピー、ハンガーラックのコピーを手の届く所に用意します。(コピーの実際形としては、袋や段ボール箱、小ぶりの収納箱やラックなどが頭に浮かびますが、目的を満たすことが出来ればなんでも良いでしょう。)

こうしておいて、システム収納に戻す衣類、ちょっと着たけれどまだ使い続けるつもりの衣類、汗になり洗う物、読み差しの本、使い終わった食器、目薬や軟膏などの頻繁に使いそうな医薬品類・・・などは、とりあえずこのコピー収納に分類して戻します。
これは振り向けば手が届く場所にあるので、さほど面倒がらずにできると思います。
次に、どこかに行くときに、ついでにこれらを運びます。
例えば、トイレに行く時についでに洗濯物を運ぶとか、台所に立つときについでに食器類を運ぶなどです。
頻繁に使いそうな医薬品は、もう最初から箱の蓋などに入れて机上に置いておくのも手でしょう。
こうすれば、あまり散らからずに楽できるのではないでしょうか。

え? 掃除?
それはルンバでも買ってやってもらうことにしよう。

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