保坂正康の最終講義
先日、テレビをつけたらこんな番組をやっていて、少し見ていたら面白そうだったので途中から録画し、今日それを見直しました。
彼は多くの戦争体験者の聞き書きをしてきた人で、その経験から最後に若い人に言い残しておきたいことをまとめたもののようでした。
私の印象に残った箇所です。
東條英機の遺族にヒアリングした時のこと。
奥様の話では、開戦が決定した日の夜、彼が寝室の隣の部屋にこもったままだったのでそっと様子を見たら泣いていたそうです。
保坂さんがこの逸話で何を言いたいのか、天皇の意思が通らなかったことに申し訳ないと泣いたのか、これから国民に降りかかるであろう苦難を察して泣いたのか、私にはすぐにはわからなかったのですが、彼は続けて「日本の政治家はこういう時すぐ泣く。本当は合理的思考を貫かなくてはいけないのに」と言いました。
ハッと思いました。
中国で残虐行為を働いた人にヒアリングした時のこと。
応接間に通されたので、保坂さんが「残虐行為の話を聞くのだから、こういう場所でなく外で話を聞きたい」と言ったら「よく言ってくれた、君はそういうことがわかる人間なんだな」と言ってもらえたそうです。
何のことかと思ったら、以前にある政党の人間がこの人の自宅に来てお前のした残虐行為について話せと言われ、誰もいないと思って話したら、後で息子が出てきて「おやじはそんなことを中国でやっていたのか」と言い、以来家を出てしまってそれっきりになってしまったというエピソードが紹介されました。家で話すような事ではないという倫理的な見識について述べたかったもののようです。
また、最近よく日本軍が中国で残虐行為を働いたというのはフェイクだという右派の人がいますが、ここではさらっと当然のように肯定して話されていました。当たり前ですが、好感が持てました。
保坂さんはまた、民主主義の背後をファシズムがついて来る、という表現で、民主主義の危うさを指摘していました。
そして、それを回避するためには、歴史に学ぶことが大事であり、特に先人の意見に耳を傾けることが欠かせないと述べていました。
戦争世代に話を聞くと、必ず「お前たちはいいなあ、戦争を知らなくて済んで」と言われるそうです。これは事実で、私も親や親戚からも何度も言われました。彼らは肌で戦争を知っているので、生半可な理屈では対抗できません。
「戦争反対」と口にするだけで何かを手にできるわけではなく、本当の戦争とはどんなものか、なぜ起きるのか、聞き書きなどを通じて皮膚感覚で理解する努力が求められていると思いました。
講義終了後の保坂さんの一筆です。
前事不忘 後事之師(前事を忘れざること後事の師なり)
コメント