日本はタタール?

ウクライナの国防相が更迭され、新しい人が任命されたそうですが、その人のことを「クリミア出身のタタール人」とあったので、タタールについて調べました。
そしたら驚いたことに(ロシア人から見れば)日本もタタールなのだそうです。
樺太の西にある海峡を私たちは「間宮海峡」と呼んでいますが、ロシアではあれを「タタール海峡」(中国語に翻訳すると韃靼海峡)と呼びます。なぜなら、日本は(東の方にある)タタールだからだそうです。

タタール人というのは、ユーラシアの中央部に住むテュルク語(後のトルコ語)を話す民族の総称です。
中国から見た北方蛮族に突厥(とっけつ)というのがありますが、あのあたりの民族で、従って遠い祖先はスキタイです。

モンゴルがユーラシアを支配し、ロシアが13世紀からほぼ250年間もモンゴルに隷属した屈辱の時代を「タタールのくびき」と言いますが、タタールはモンゴル帝国の一部としてロシアを暴力で苦しめたとされています。現在のロシアの暴力性の根源をここに求める人もいます。

さて、そのトルコ語を話すタタール人がどうして日本人になるのでしょうか。
色々調べた結論として、以下の説明が最も妥当だと思いました。
まず言葉について。

A.ユーラシア中央部で話されていた言語は、広く「ウラル・アルタイ語族」に属す
B.日本語はその一種であり、他に朝鮮語、満州語、モンゴル語、トルコ語(以上はアルタイ語族)、ハンガリー語、フィン語(以上はウラル語族)などが含まれる
C.その主な特徴は、
  1. 屈折語ではなく膠着語である
  2. 語頭に子音が連続しない(だから日本語にはstrikeのような言葉はない)
  3. 語頭にr音がこない
  4. 冠詞がない
  5. (文法上の)性がない(男性名詞とか女性名詞などがない)
  6. 「持つ」ではなく「……に〜~がある」という言い方をする
  7. 疑問詞が文の後ろにくる
  8. 語順がSOV型である

解説すると
1の屈折語とか膠着語というのは、英語のgo - went - goneやfoot - feet のように動詞が時制により変化したり名詞の中身が単数と複数で異なったりするものを屈折語、基本部分は変わらず行く - 行った - 行けば、私 - 私たちなどと語尾が変化するタイプの言語を膠着語と言います。日本語だけでなく、モンゴル語やトルコ語、ハンガリー語、フィンランド語などは全て膠着語です。

3の r 音で始まる単語は日本語(やまとことば)にないというのは、え?と思いましたが、確かに辞書を引いてみると「来意」「烙印」「理性」「類似」「礼拝」「労役」など、全て外来語(中国からの)でした。やまとことばはありません。

6の「持つ」ではなく「……に~~がある」という言い方をする、というのは、英語などでは
 I have two eyes and two ears.
などと言うのに対し、日本語では「私には目も耳もある」と言うことを指します。目も耳も持っているんじゃなくて、初めから体にくっついているのだから日本語の感覚の方が自然だと思いますが、英米人は違うセンスの持ち主なんですね。
モンゴル語やトルコ語を話す人々は、その点で日本人と共通した感覚を持っているといえます。

最後の語順については、我々が英米語を勉強する時に一番困った点ではないでしょうか。でも、最初に習う外国語がもしモンゴル語やトルコ語だったら、語順が同じなので、単語さえ覚えれば外国語を話すのは簡単だと思われます。
現に、私は仕事で韓国のLGの人とお付き合いしたことがありますが、彼らが実に流暢に日本語を話すのを聞いて驚きました。また、モンゴル出身の力士もよく日本語を話します。あれも、同じウラル・アルタイ語族の民族だからなんですね。
(逆に、英米系、つまりインド・ヨーロッパ語族の人の中には数か国語を流暢に話す人が多いが、全部同じタイプの言語ならそれほど驚くことではないかもしれない)

このような言葉を話す人々が住んでいたユーラシアに、中国語やロシア語といった異なるタイプの言語を話す民族が侵入してきて、半分支配された形になっているのが現状と思います。
憂慮すべきなのは、彼らが支配している民族ネイティブの言語を地上から抹殺しようとしていることです。
プーチンのロシアは、ウクライナから拉致してきた子供たちにウクライナ語を話すな、会話も勉強も全てロシア語にしろと洗脳していると言われています。それ以外にも、ロシアの中にあるいくつかの「共和国」でも、母国語での教育を制限したり廃止したりしています。
習近平の中国はもっと露骨で、たとえばウイグル族がウイグル語を話すと逮捕されてしまうそうです。これはもう一種のジェノサイドだと思うのですが、幸せな日本人はこういう虐待に対する感度がとても低いように見えてなりません。
言葉はたましいの容れ物だと、どこかで聞いた覚えがありますが、言葉を奪われるのは殺されるのと同じくらい辛い体験だと思います。

さて、このような文脈でユーラシアを見ると、ロシアはそこに暮らす原住民を十把一絡げにタタールとよび、自分らはヨーロッパの正統な言語を話す支配民族であり、日本は蛮族タタールの一種だと見做して、間宮海峡をタタール海峡と命名したことがよく理解できます。
そして、日本人が考える以上に、ロシアは蛮族タタールの末裔たる日本を武力で制圧することを当然視しているのかもしれません。

先日BSプライムニュースで見たのですが、山下元陸将がトルコの戦争博物館に行った時、解説してくれた軍人に自分も日本の自衛隊出身だと言ったところ、喜んでくれて、我々の共通の敵はロシアと中国だとはっきり言ったそうです。
まさしくウラル・アルタイ語族の絆ですね(笑)。


参考にした資料
田中克彦『ことばは国家を超える』
田中克彦『シベリアに独立を! 諸民族の祖国をとりもどす』
小室直樹『ソビエト帝国の崩壊』
小室直樹『ソビエト帝国の分割』

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