ハルノ宵子『隆明だもの』
暖かく風もなく良い天気。
しばらく色々な行事や予定が入っていて、ジムのランニングサークルには出席していませんでしたが、今日は久しぶりにここで走ってみました。
超スロージョグなので、体力的には楽ですが、それでも久しぶりに走ると息が上がります。
走り終わってジムに戻り、水泳してスッキリしました。
面白い本を読みました。
ハルノ宵子『隆明だもの』
ハルノ宵子は吉本隆明の長女で漫画家、タイトルの隆明は「リュウメイ」と読むんじゃないかな。吉本家の中身を全部ぶちまけて、吉本ファンのおじいちゃん達の幻想を全部ぶち壊そうという強烈な意志を感じました(笑)。
大思想家と言われていますが、その大きな理由の一つは初期の三部作『共同幻想論』『心的現象論序説』『言語にとって美とは何か』が揃って難解なことにあります。本書を読むと、その秘密が少しわかったような気になります。
要するに、ハルノ宵子によれば吉本一家は全員が「サイキック」だというのです。
吉本ばなながサイキックらしいことは知っていましたが、隆明本人もそうだという指摘は新鮮でした。隆明はサイキック(サヴァン)なので、思索の行き着く先が先に見えていて、そこに向けて論理を構築していくので、我々読者にしてみれば論理がたびたび飛躍しているのになぜか正しい(そうな)結論に導かれていく、そこが難解に見えるのだろうと言うのです。
なるほど。
本書で開陳された吉本家とは
- 近所の野良猫が出入り自由(エサをやる)
- 玄関や掃き出しは冬でも少し開けていて猫が出入りできる
- 家には施錠しない
- どんな人が訪ねてきても家に上げて何時間でも話を聞く
- 年収は波があるが数百万円程度(なので、ばなながお金を入れていた)
- 毎年夏に西伊豆で家族揃って海水浴をしていた(そこで隆明が溺れた)
- あらゆる党派の人が集まり公安にも目をつけられていた
等々、素寒貧というスタイルを意識的に選んでいたと言えなくもない徹底ぶりでした。
奥様はこのようなやり方が気に入らず、絶えず衝突していたようです(当然)。
最後に隆明の健康について興味深い記述がいくつかありました。
71歳の時、海水浴中に溺れ意識不明の重体に。助かりはしたものの健康を大きく害し、この時のストレスで80歳のとき大腸がんになるなど晩年は廃人同様だったと言われています。
その背景には持病の糖尿病があり、水泳に堪能だった彼が浅い水辺で溺れたのは低血糖による意識喪失が原因だった可能性があると書かれていました(そのため肺に水が入らず助かった)。その後視力も極端に落ち、パソコンの文字を最大に拡大しても読めなくなり、ルーペを手放せず、いつもあたりが夕暮れのように薄暗くて「生きた心地がしない」とぼやき、一時は自殺を真剣に考えていた節もあったそうです。
ここまで文字を拡大しないと読めなかった |
そんなことや、最後の日前後の記述には、思わず襟を正して読ませる迫力がありました。
そんな惨憺たる健康状態なのに、87歳まで生きたと言うのは、人間の生命力というのはしぶといものなんだなあと改めて感じ入りました。
人間が生き、そして死ぬということは文字通りの大事業なんですね。
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