高潔なTJAR戦士
TJARは今日で四日目。
トップは前回と同じ土井選手ですが、今回は波乱含みです。
足のマメがひどい状態らしく、スピードがガタ落ちで、一時は二位を十時間以上離す完全な独走状態でしたが、今はほとんど追いつかれそうになっています。
このままだと抜かされるかもしれません。ドキドキ。
また、静岡の海岸にはひょっとしたら昼ごろに着くかと思われていましたが、今日中に着くかどうか怪しくなりつつあります。
しかし、私はなんだか今回のレースに集中することができなくなっています。
それは某選手の失格事件のためです。
トップの土井選手と抜きつぬかれつ接戦を繰り広げていた二位の選手が、二日目の深夜、中央アルプス(日本海からまる二日でこの場所にいること自体が無茶!)の宝剣岳を通過し、ルールではヘルメットを着用することが義務付けられているのにそれを失念していたことに後で気がついて自己申告し、その結果失格となりました。
48時間寝ずに過酷なレースをしていたため、うっかりヘルメットを取り出すのを忘れたのは十分ありうることです。
私は宝剣岳を夏と冬の計三回登っていますが、岩岩していますがホールドもたくさんあり、それほど難しい場所とは思いません。事実、ヘルメットなしで多くの登山者が通過しています。そんな場所を、ルールとはいえ無装着で通ったことに対するペナルティとしてはあまりに大き過ぎる代償と思います。
しかし、ネットではさすがTJAR戦士は違う!と、この行為に対する賞賛の嵐が巻き起こりました。それに私は違和感を感じてしまったのです。
たしかに美談です。
特にTJAR本戦に出場するためにどれだけ準備し努力しなければならないかを知っていれば、しかもトップ争いを繰り広げていた当事者であれはなおさら、凡人にはできない高潔な決断を成し遂げたと言わざるを得ません。
ただ、この失格という措置は、厳し過ぎてバランスを欠くように思うのです。
海外のレースでも、ルール違反に対しては厳しいペナルティが課されるのが普通ですが、大抵は「時間加算」つまり所要時間にペナルティ時間が加算されるか、どこかで規定の時間足止めを食らうかが大半です。
その場で失格となるのは重大な違反に限られます。
そういうバランスの問題を棚に上げ、ただ自己申告の純潔さに酔っている論評ばかりであることに私は少しばかり辟易してしまいました。
過去にも、ほとんど登頂するばかりまで行って(携行義務のある)レインウエアを下に置き忘れたために下山して再び登り直した人とか、静岡のゴールゲートまで来てから必携品の携帯電話のバッテリが空であることを自己申告し、再び市内に戻って空いている携帯ショップを探してに何キロも歩き、ようやく新規購入してゴールまで戻った人など、TJAR戦士の「高潔さ」を伝えるエピソードはいくつかあるのですが、そこに私は日本社会のある種の息苦しさを感じてしまうのです。
とは言え、もちろん、この選手自体は自分に正直な真の勇士です。
真似したくともできないヒーローです。
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