『影法師』
百田尚樹『影法師』を読みました。
時代物で、勘一(主人公)と彦四郎という親友同士の数奇な運命を描いた物語。
勘一は努力型の秀才、彦四郎は天才ですが、どちらも江戸時代の厳格な身分制度の中で自分の運命を受け入れながら、必死で生きていきます。
以下、自分の記憶のためにあらすじをメモっておきます。
勘一の父は、子供を守り身分の上のものに反抗して殺されますが、その時に彦四郎と出会い、その後、藩校で一緒に学ぶことで絆を深めていきます。
特に、川で溺れかけた彦四郎を助けようと泳げないのに飛び込んだ勘一に彦四郎は深く感動し、後に刎頸の契りを結ぶことになります。
物語は、剣道場への入門、百姓一揆とその首謀者一族の処刑など、大きな山場を見せながら巧みな語り口で進んでいきますが、やがて勘一が領民の暮らしを助けるための干潟の干拓に命をかける覚悟を示して後、彦四郎はその実現を影になって支える役に徹するようになります。
ここで勘一は隣家の引越しにつけ込んでその娘を女衒に売ろうとする悪党三人を殺害しますが(この時彼はまだ15歳)、彦四郎は刃こぼれして使えなくなった刀の代わりに竹光を差している勘一にそれでは目立つからと新しい刀を与えたりして庇います。
その後、藩主の前で剣の腕を競う上覧試合が開かれ、彦四郎は天才的な腕前を披露します。勘一は試合では敗れたものの、藩主の目に留まり、やがて与力として出仕することになります。
試合の部分における剣戟の描写は秀逸で、知識のない私にも思わず手に力が入る場面が続きます。
やがて勘一は、彦四郎の屋敷で出会った下女のみねに懸想し、結婚するに至ります。
物語は最後の幕が開き、干拓事業を妨害する筆頭家老の滝本家との戦いになります。
この頃、上意討ちを命ぜられた勘一は彦四郎の助けで辛くも敵を討ち取りますが、彦四郎はなぜか背中を切られ、これが「卑怯傷」という汚名を着せられて出世が叶わなくなります。
干拓は軌道に乗り始めますが、滝本により度々妨害が入り、とうとう勘一は敵を仕留めますが、それは滝本の息子でした。
滝本家はお取り潰しとなり、勘一は江戸勤めを命じられます。
そして家族を連れて江戸までの長旅を無事に果たし、江戸勤めを終えて後、とうとう国家老にまで上り詰めて故郷に帰りますが、そこで知ったのは、敢えて汚名を着てまで勘一の干潟開墾の夢の実現に尽くした彦四郎の影法師としての生き様でした。
大変感動的な物語でした。
著者がここで何を言いたかったのか、それは当時の弊害の多かった厳しい身分制度の下で、ひたむきに正義を求めて生きる「武士の心」ではなかったかと思います。
私が子供の頃にはまだ、ご先祖様は武士だから云々という言い方で子供をしつけようとした時代の名残がありましたが、今はすっかり消えてしまったと思います。
しかし、本書で理想化されて述べられているような「武士の心」の価値は、普遍的なものとして語り継がれる意味があるように思います。
コメント
忘れかけていた感動が蘇ってきました。
この本を閉じた時胸が熱くなり涙しました。
日本人ならではの武士道の揺るぎない精神、このように貫きとうせる正義は
今の日本人にはあるのだろうか、夢物語かもしれません。
今回も大変満足できました。
通信技術革命で周囲の情報だけは嫌というほど入ってきますが、それを受け取る自分自身は案外中身のない空虚な存在かもしれません。
そんな時代だからこそ、武士の心のような自分の中身を埋めてくれる精神論に惹かれるものを感じるのではないかという気がします。
人は生まれる時と死ぬ時は自分一人ですから。