渡部昇一『95歳へ!』を読む
本を片付けていたら、渡部昇一さんの『95歳へ!』(2007)という本が出てきました。
この本は彼が77歳の時に書かれたもので、95歳くらいまで楽しく生きて静かに生と別れを告げたいという希望を実現するためにどうしたら良いか、ボケずに健康で95歳を迎えるにはどんな生活を送ったら良いか、何人かのかくしゃくとした高齢者と対談をして知り得た秘訣をまとめたものだそうです。
内容は、一言で言えば渡部昇一さんらしいそつの無いもので、なるほどと頷く点の多い知恵の塊のようなものです。よく言えばそういうことになりますが、悪く言えば自己正当化の塊のようにも見えます。
例えば、彼は世界的に見ても類のない個人蔵書を持っていて、自宅の敷地内に15万冊の蔵書を収納する巨大な図書館を建てました。(その蔵書目録が600ページもあって神田の古本屋で三万円で売られているなどの自慢も書かれています。)
この時彼は「所有する本を(狭い書斎に積み重なっていて)使えないのと、借金をして個人図書館を建ていつでも読めるようにするのとどちらがより愚かだろう」と自分に問い、後者の方が「レス・フーリッシュ(愚かさが少ない)」だと結論したと述べ、読者にも晩年はあまり賢くならずに楽しく生きることを選ぶべきだと記しています。
しかし、この例はあまりに普通の人の生活とかけ離れていて、私には教訓としての説得力に欠けると感じられました。
ただ、後期高齢者になったからと何でも捨てて身辺整理に励む「終活マニア」も多く、そういう人には良いアドバイスだとは思いますが。
本の最後には、内容を「25のアドバイス」にまとめて掲載してあり、なかなか参考になります。
ただ、彼自身は95歳まで生きたいと述べていますが、実際には86歳で亡くなっています。本書が書かれた2007年時点での「平均余命」にピッタリ同じで、別に問題はないのですが、本のタイトルにするくらい95歳にこだわっていたのですから、もう少し長生きしてもおかしくないと感じました。
私の「からだ改造」の視点から見ると、渡部さんの25のアドバイスの中にはいくつか該当するものがあります。
まず、水泳を習いなさいという項目があります。
しかし、よく読んでみるとこれは心配性の人に対するアドバイスで、泳げなかった自分が泳げるようになったら世界の見え方が変わり自信がついたので、臆病な人は水泳をやりなさいというものでした。
決して健康法として提案しているものではなく、さらに「学問的著述のない人は水泳ができない」などという一般論にまで拡大していて、悪い意味での渡部節になっています(困った人です)。
健康でボケないためには肉体と頭脳のトレーニングを欠かさないこと、というのは私と同じ発想ですが、肉体面では
- 「歩行禅」で脳と足腰を鍛えよう
- 腹を減らして身体を刺激しよう
- 真向法で身体を柔らかくしよう
- 睡眠はたっぷり取ろう(がん予防)
程度でした。
要するに、ウォーキングとプチ断食とストレッチです。
いずれも大切な健康法ですが、これで十分とは言えないことは、彼が95歳まで生きられなかったことが証明していると思います。
しかし、ためになる話も満載で、一読して損にはならないと思いました。ある有名人の夫人が、夫に先立たれてからカトリックの修道院に入り、そこで静かな祈祷生活を送って生に対する執着や死の恐怖が全くないまま「帰天」した話を紹介し、「60歳定年を立派に果たした人は、一応の修行者。残りの35年間は本物の修道生活に入っても良いのではないか」と述べているのはその一例で、なかなか言えないセリフだと思うのです。
私も修道生活としての晩年を設計してみようかな。
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