ウクライナ情勢とプーチン

反転攻勢がうまく行っていないのを受けて、そろそろ停戦に向けて舵を切るべきだという主張がメディアに流れ始めました。

反転攻勢がうまく行かない理由は、三つあると思います。
1.ロシア軍の防御陣地があまりに強力であること。これは西側の強力支援(ハイマースやレオパルド供与など)が決定するまで半年ほどぐずぐず長引いていたために、ロシア軍に塹壕堀りなどの時間を与えてしまったことに原因がある。

2.こうした防御陣地突破を航空戦力による支援がないままやらせていることで、F16も一年後にならないと供与されないのでは片手を縛られて戦わされるようなもの。

3.ロシアに対する経済制裁が期待したほど厳格に行われておらず、戦争の長期化によってもロシアがそれほど弱ってきていない。インドなどひどい。


一方の西側は、米国大統領選などの国内要因が災いして勢いに翳りが見え始め、それに乗じてロシア側のプロパガンダが浸透してきて世論に揺さぶりがかかってきています。日本の匿名掲示板やSNSでもあからさまなロシア支持・ウクライナ誹謗の書き込みが後を絶ちません。
特に危ないのがアメリカで、バイデン政権はこれまでロシアを恐れて、本来やってはならない「戦力の逐次投入」に終始していますが、もしトランプが巻き返したりするとウクライナ支援は止まってしまう可能性すらあります。そうなれば世界にとって災厄です。

反転攻勢は期待通りには進んでいないとしても、少しずつではあるが前進し、ロシアを自分たちの国から追い出しつつあります。そんなタイミングで、アメリカは命懸けで戦っている友人に背を向けようとするでしょうか。

トランプならするかもしれない、と私は思います。

彼はプーチンの本質を見抜けず、友人呼ばわりしましたから。さらに彼にはアメリカの国益のためと称して悪魔と手を結ぶことすら憚らない傾向があります。この辺り、かつてヒトラーとの戦いに背を向け、悲惨な孤立主義を選択した人たちのことを思い出さざるを得ません。すでに同じ共和党のフロリダ州のデサンティス知事は、ウクライナ侵攻の本質はウ・ロ間の領土戦争であり、アメリカの国益と無関係だと述べたそうで、この種の意見はこれから加速度的に増えていく可能性があります。もちろん大きな間違いです。

これは他人事ではなく、日本はアメリカの核の傘に入っているとして安心していますが、本当に台湾有事となった時、日本のために彼らが喜んで核を打ってくれるでしょうか。
考えれば考えるほど憂鬱になります。

プーチンについては、最近読んだこの記事が大変参考になりました。

 
この中で私が注目したのは下記の諸点でした。

  • ソ連が崩壊した後、経済(下部構造)を資本主義に変えれば放っておいても政治(上部構造)は自然に民主主義になっていくだろうと楽観していたが、それは間違いだった
  • 国営テレビもKGBも残り、司法改革も行われなかったため、全体主義に行かないように歯止めをかける予防措置が作られずロシアの民主主義への道は閉ざされた
  • エリツィンがプーチンを後継にしなければ現在のようなファシズム体制にはならなかった
  • プーチンは権力を取ってすぐに民主的な「独立テレビ」を解体し情報統制を始めた。現在のファシズム体制はプーチン個人が原因であってシステムの問題ではない
  • 1990年代は自由の時代だったが、一方で国民の窮乏化も進んだ
  • 無能なエリツィンはメディアを総動員して自分を支持するよう国民を洗脳しようとしたが、国民はメディアを信用しなくなっていった。だから、プーチン時代になってメディアの弾圧が始まっても国民は反対しなかった。
  • エリツィンは、パッとしない、誰の利益代表でもなく、ドレスデンでシュタージ(東ドイツの秘密警察)の助けを借りてスパイのリクルートに励んでいた小柄な元KGB中佐なら、大統領にしてやったことに感謝して、オモチャのように自分の言うことを聞くだろうと考えた
  • ロシアとロシア人が抱える問題は、自分たちの意識の中にある「帝国シンドローム」つまり「ロシアは世界の支配者であり、他の民族はわれわれの前に頭を下げるべきだ」という意識だ
  • この「帝国シンドローム」は1990年代には眠っていた。死んでしまったわけではなく、眠りの中でいびきをかくことも夢を見ることもあったが、ゴルバチョフの時からこの帝国シンドロームは眠りについていた(ゴルバチョフはベルリンの壁の崩壊を認め、一時的に「帝国としてのロシア」を凍結した。これは彼の功績だ)
  • ロシアはソ連から「帝国シンドローム」をも引き継ぎ、プーチンはこの眠っていた「帝国シンドローム」を目覚めさせた
  • 3割くらいの人びとがこの「帝国シンドローム」で強く病んでいる。「俺はロシア人だ。ロシアは偉大だ、だから俺はどんなアメリカ人よりもドイツ人よりもウクライナ人よりも上だ」と現実を無視できれば、どんな嘘でもやすやすと受け入れるようになる
  • 2000年代前半には経済成長があり、ロシア人がこれまで経験したことのない良い生活があった。年金も給料も上がった。しかしおぞましいことも起きていた。メディアの統制だ
  • 生活も安全も保障されていればそれでいいと人々は考えた。海外へ自由に行けるし、自己実現したいなら外国へ行って勉強して職に就けばいい、という気分だった。「街路に出てデモをしなければ」という、突き動かされるような感覚はなかった
  • テレビも「エリツィンの頃はひどかった。プーチンのおかげでいまはいい生活だ。プーチンに反対するということは、この良い暮らしに反対することだ」と吹聴していた
  • 人びとはテレビばかりを見るようになり、まったく別の「情報カプセル」の中に閉じこもってしまった。一度「情報カプセル」の中に入ってしまうと、別の視点で世の中を見ることができなくなってしまう
  • プーチンのキャリアには三つの段階がある。「不正汚職時代」→「皇帝時代」→「戦争時代」だ。プーチンは生きている限り戦争を続ける。プーチンは戦争を止めない
  • プーチン体制とスターリン体制の違いは、プーチン体制はウソを土台としていることだ。
スターリン体制は暴力を土台としていた。プーチンの体制は土台にウソ、上部に暴力だ。
  • プーチンのファシズム体制は、内部から崩壊することはない。終わらせるのは独裁者の死か、軍事的大敗か、この二つしかない

「情報カプセル」・・・なんと日本の現在と似ていることだろう、と思いました。

コメント

人気の投稿