超並列計算機の仕事が評価されていた
今日は嬉しいことがありました。
私の昔の仕事を大変評価してくださっている資料を見つけたのです。
研究所時代、私は上司のI部長に呼ばれ、「超並列計算機」を研究してみないかと言われました。当時、筑波大のH教授が安いマイクロプロセッサをたくさん結合して、スーパーコンピュータ以上の性能を出す流体力学計算の専用機を夢見ておられ、会社のK副社長に開発を打診されたのだそうです。それが回り回って私のところに降りてきたのでした。
それから様々な紆余曲折を経て、この計算機は製品化され、2048台を結合したフルスペック機が当時の性能コンテストでダントツの世界一に輝きました。
私は、それまで知られていたマイクロプロセッサの結合方式では性能が出ないことがわかったので、全く新しい結合ネットワークを考案し、それに「ハイパークロスバーネットワーク」と命名し、特許を取りました。社内でも、戦略特許賞という名誉ある賞をもらいました。
おそらく性能コンテストの結果が良かったのはこの方式のおかげだと思っていたのですが、その後私はこのプロジェクトから離れていて、製品化も筑波大への納品(向こうではCP-PACSと呼ばれた)にも立ち会うことはできず、頭の中にあったアイデアがどのように製品化されたのか、ハイパークロスバーネットワークがどのように貢献したのかしなかったのか、何も知らずに今日まできました。
製品化された超並列計算機は筑波大だけでなく各方面(その中にはなんとワルシャワのポーランド日本情報工科大学も含まれる)にて利用され、高い評価を得たと聞いています。さらに、私が中国の精華大学を訪問したとき、雑談の中で超並列計算機の開発に携わっていたことを話したら、SR2201は素晴らしい計算機であり、その開発者とお会いできて光栄だと言われ、大変恐縮したことを覚えています。
でも、それも今は昔の話です。
ところが、かつての研究所のOB会に出たのを機会に、昔の業績を電子出版する話が持ち上がり、私の研究も評価したいと言われて情報を集めていたところ、筑波大の研究者らがハイパークロスバーネットワークを絶賛している記事を見つけたという訳です。
大昔のことですが、記念に一部を引用しておきます。素直に嬉しいです。
【ハイパークロスバーネットワークについて】
■並列計算機としての CP-PACS の特徴の一つは、ハイパークロスバーネットワークである。なかなか定量的に評価できない事であるが、ハイパークロスバーという QCD には一見贅沢なネットワークに費用を投じるのは、正しい選択であったと思う。
■「3次元ハイパークロスバーネットワーク」の特長は以下の通りです。
a. 短距離通信:最大 3 回のクロスバスイッチ乗り換えで任意の PU と通信可能
b. 柔軟なトポロジ:演算プロセスの PU へのマッピングに対する自由度が高い
■当時、CP-PACS の並列通信ネットワークである 3次元 Hyper-Crossbar (3D-HXB)網が既に日立から提案されており、私は このネットワークの面白さに嵌ってしまった。CP-PACS で採用された 3D-HXB 網は、クロスバ網の柔軟性とメッシュ網の低コスト性を持ち、さらに Hyper-Cube より degree(ノード間接続の次元数に相当)が小さく、非常に バランスの取れたネットワークであった。
3D-HXB は本当に研究甲斐のあるネットワークであった。
■何よりも感心したのは、X軸はプロセッサボード上にあり、Y軸はバックボ ード上にあるため、8 x 16 = 128 台までの並列プロセッサ構成では、接続 するネットワークのケーブルがまったく必要無いということでした。CP-PACS は 2048 台のプロセッサ構成ですので、Z軸を構成するためのケーブルが山のようにありますが、製品化された SR2201 ではネットワークケーブルをほとんど必要としませんでした。
【超並列計算機自体について】
■ 1992 年 9 月には CP-PACS が 2048 ノードの最終構成になり、Linpack ベンチマークで世界最高速を記録した。
マシン室で「世界記録達成!」と仲間で喜びをわかちあったのを記憶しています。
■CP-PACSは以降数年間のQCD(量子色力学)における世界の研究をリードすることとなった。特に quenched light hadron spectrum の計算結果は1980年頃に始まる格子QCD計算の里程標の一つとみなされる結果となっている。
■CP-PACS に込められた様々なアーキテクチャ上の工夫、それを実現した実装技術、その上に立った格子 QCD の計算とその結果は、それぞれに多くの関係者の多大な労苦を秘めながらも、beautiful という言葉が一番ふさわしい。
■あるユーザの方は SR2201 を評してこう仰いました。
『SR2201 は超並列コンピュータ界の F1 マシンだ!』『名機!SR2201』
現在、この超並列計算機は引退しましたが、国立科学博物館に寄贈され展示されているそうです。私もそのうちに見に行こうと思っています。
コメント
国立科学博物館に展示されてるとは凄い!の一言です。
これほど評価されていたとは知らず、その夜は興奮して寝付かれませんでした。
それと同時に、このマシンが誕生し成果を出すまでに何十人という人の知恵と努力が注ぎ込まれていたことに、あらためて身の引き締まる思いがしました。コンピュータ開発は壮大な共同作業(チームワーク)です。