『ボケますから、よろしくお願いします。』

信友直子『ボケますから、よろしくお願いします。』を読みました。
映画になって話題を呼んだ原作です。

著者はフリーの映像作家として、自分の家庭も昔からビデオカメラで撮っていたそうで、それがある時母親が認知症になっても自然にカメラを回すことができた理由だそうです。
普通なら、おかしくなってきた母親を撮るなんてできないでしょうし、その夫である父親も許さなかったことでしょう。
ましてそれをドキュメンタリー映画にして全国公開するなんて…。

映画『ボケますから、よろしくお願いします。』は大変な話題を呼び、当初はミニシアター一軒だけで上映していたものが、連日満員の盛況ぶりに全国100館近くで観られるようになったそうです。
本書はその成功に力を得て書かれたものですが、私は映画を観ていないのでこれが初めてです。

発症と認定されたとき母親は85歳、父親はもう93歳という高齢で、それから母親は何度か脳梗塞に見舞われ、本書の最後ではもはや復帰は望めず、療養病棟で寝たきり生活となってしまいます。
娘は遠く離れた東京暮らしで時々帰省するだけですが、母親の介護は高齢の父親一人が担当し、いよいよどうしようもなくなってヘルパーさんに来てもらうことになります。
その間の様々な経緯も本書には詳しく書かれていて、息を呑むような緊張感を持って読み進めることができました。

しかし、全体の印象としてはあまり悲惨ではなく、非常に良くできた父親の振る舞いと併せ、むしろユーモラスで救いのある闘病生活と感じました。
それはやはり家族のレベルが高いせいであるように思います。
父親は戦争のため希望していた三高(京大)に進学できなかったことが無念だったと書かれているように、もともと頭の良い人のようで、一人娘の直子も東大卒ですから、平均以上の知的な家族だったと言えます。
この家庭が普通の家庭よりできが良いように思えるのは当然でしょう。
認知症と脳梗塞というダブルパンチに見舞われても、それを前向きに受け止めて、家族全員が一致団結して生きていく姿は感動的にして理想的なようにも見えます。
特にお父さんの態度は誰にでも真似できるものではないと思いました。

詳しくは本書を読んでいただくとよくわかります。
予告編を貼り付けておきます。


なお、お母さんは本書が発行された翌年に家族に看取られ永眠されたそうです。
その時の父親の様子は、『バカ老人たちよ!』に掲載してありますのでご一読ください。

コメント

人気の投稿