『おれは老人?』
また勢古浩爾の本を読んでしまいました。
『おれは老人?』(清流出版)
著者77歳の時の作です。
内容はこれまで読んだ二冊(『バカ老人たちよ!』『自分がおじいさんになるということ』)とかぶりますが、これが一番面白かった!
まず、多くの老人は自分が老人とは思っていないらしいという事実を、有名人の発言など、いろいろな例を挙げて述べています。
私も、先日プールでかなり高齢の(シワシワの)男性から親しげに話しかけられ、どうしてオレに?と不審に思いましたが、その後で姿見で自分を見て納得せざるを得ませんでした。
同じ汚い老人だったのです。
著者は、キャップ(野球帽)をかぶり、シャツを外側に垂らし、半ズボンとスニーカーで、ザックを背負うかバッグを斜めがけしている老人を、ユニクロ老人と呼んでからかっています。
そういう彼自身もユニクロ老人なんですが、私から見たらそんなのどうでもいいし、むしろ楽な服装として無為徒食の老人には向いているファッションだと思うのですが、えらくこれにこだわって批判しているのは少し腑に落ちません。
それはともかく、著者は
老人になると、体も、顔も(皮膚も)いやおうなく汚くなる
と書いています。
一人でいるとき「老人」を意識はしないが、一人で鏡を見るとき、我々が見るのは「老人」以外の何者でもない。
この残酷な現実に対し、次のようなアドバイスをしていますが、これには賛同したいと思います。
⁃ 身ぎれいにする
⁃ 立ち居振る舞いは穏やかに
⁃ 言葉遣いは柔らかく
養老孟司も「年寄りはにこにこしてればいいんですよ」と言っているそうです。
しかし、現代の年寄りは、「老人?知ったことか」、「おれはおれ」意識が強く、「したいことがあったら、いくつになっても遅すぎるということはない」「第二の人生だ、楽しまなくては損」と考えているそうで、つまりは「おれ意識」>「老人意識」なのだとか。
こんな調子で、本書では珍奇な老人たちの生態を次々と暴いていき、こんな連中とはなるべく目を合わせないで生きていくべしと、述べています。
いちいち共感するところが多く、どんどんページが進んでいきます。
いまや「楽しむ」は時代を象徴する言葉だ。
生きる目的も、生きる意味も、仕事も、趣味も、すべて「楽しむこと」。
やかましいわ。
本当にそう思います。
ただ、著者と私とでは、健康状態がかなり違います。
何と言っても、彼は71歳の時、脳梗塞を患っています。
幸い軽症で済みましたが、それ以来、まっすぐ歩けないとか、喉に物が引っかかるなどの細かい不調が続いているそうです。
さらに、懸垂が一回もできない、走れない、ペットボトルの蓋が開けられない、服を着替える時片足だちができない・・・など体力の衰えを感じていたところに、突然体が動かなくなって頭から突っ込むという異変に見舞われるようになりました。
倒れると、1ミリも体を動かせないのだそうです。
三度目には、これはもうダメだと観念して救急車を呼びましたが、その後の検査で原因はインフルエンザだと言われたそうです。
たかがインフルエンザでここまでやられるのか、私も釈然としません。
その後も、道を歩いていて突然よろけ、顔面から突っ込むという大事件を起こしています。この時は一旦立ち上がったものの、再び転倒し、指を骨折する大怪我をしています。
医者に行くと、コロナという診断だったそうですが、インフルエンザやコロナでこんな症状を呈するものだろうかと、読んでいて気になりました。
健康の話題の次は、「ニュース断ち」です。
不快なニュースばかりで、自分には何もできないのにイライラするのはたまらんと考えるのは、私も同じなので大変共感できます。
実際に徹底して「ニュース断ち」をした人がいるそうで、ドベリというスイス人がそうです。
ロルフ・ドベリ『News Diet 情報があふれる世界でよりよく生きる方法』(サンマーク出版)
この人の紹介もなかなか面白いと思いました。
ニュースには意味がない。知っても何もできない。ただの暇つぶしだ、と考える勢古さんは、ニュースを否定するだけでなくテレビや新聞などのメディアも批判し、そこからテレビ断ち、芸人断ち、CM断ちへと話が広がっていきますが、このあたりは共感するところも多く、面白く読めました。
ただ、彼が例に挙げる芸人などの多くを私は知らないことにもびっくりしました。
昔から私は芸能界を嫌っていたので、世間の平均値にはるかに届いていないようなのです。
これはこれでよし…
最後に、著者の理想とする生活について述べられていますが、これがまたいいのです。
彼は人間の最良の部分を人間元素(本質)と呼び、人はその人間元素の中だけで生きていくのが理想だと述べています。
(人間元素=誠実、謙遜、思いやり、勇気など)
その例がいくつか挙げられています。
- 恋人同士
- 家族(父と母と子の世界)
- 親友(例:山中伸弥と平尾誠二)
- 「ポツンと一軒家」(朝日放送テレビ)
- 家族経営の農業・中華屋・カフェ・食堂
- 気心の知れた友人集団
- コミュニティ(武者小路実篤の「新しき村」、アーミッシュ、限界集落)
*)ノーベル賞の山中伸弥とラグビーの平尾誠二が親友だったのは有名な話・・・知りませんでした。
相手のことを思いやり、作意のない、気心の知れたもの同士で集まって生きることほどいい人間関係はない、という著者の主張はその通りと思います。
実際に作家の森博嗣は、そのような暮らしを満喫しているそうです。
(森博嗣『静かに生きて考える』2024)
彼は、きっと世間的な意味での人付き合いがとことん嫌いなのでしょう。
私もどちらかと言えばそうです。
でも、この人間関係が維持できずに壊れていくことも多く、それは大体「人のことなどまるで気にしない、悪意と邪心を持った他の人間」が壊すのだ、と指摘しています。
人間元素の世界は fragile なのだそうです。同意!
良い本でした。

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