"神よ憐れみたまえ"の謎

マタイ受難曲中最もよく知られている美しい曲の一つが「神よ憐れみたまえ」です。
第二部が始まってすぐ出てきますが(先にご紹介した対訳付きの演奏では2:00:21から)この言葉
  Erbarme dich, mein Gott
がこれまでどうも腑に落ちませんでした。

英語だと
 I(私は)
 my(私の)
 me(私を)
と変化しますが、ドイツ語では同じように
 Ich(私は)
 mir(私の)
 mich(私を)
となります。

私の疑問は、「神よ私を憐れんでください」なら
 Erbarme mich, mein Gott
となるはずなのに、二人称代名詞のdichが使われているのはなぜか、というものです。
ちなみにドイツ語の二人称代名詞の変化は
 du(あなたは)
 dir(あなたの)
 dich(あなたを)
です。これを単純に訳してしまうと、"Erbarme dich, mein Gott"は「神よあなた自身を憐れみなさい」となってしまいます。

今日、これを聴いていて、真相がわかったような気がしたのでメモっておきます。

この曲は、いわゆるペテロの否認のシーンで歌われるもので、イエスが「お前は今夜、にわとりが鳴く前に、三度私を知らないと言うだろう」と伝え、これに対しペテロは「たとえあなたと一緒に死なねばならぬとしても、あなたを知らないなどとは、決して申しません」と断言するのですが、実際にはこの言葉通りになってしまいます。そして鶏の声を聞いて自分が師を裏切ってしまったことを知ったペテロは「外に出て激しく泣いた」。
そしてこのアリアが歌われるわけですが、それはペテロの立場で歌われるのではなくて、この精神のドラマを外から眺めている私たち信仰者がイエスではなく神に直接向き合って、ペテロに対し
 「私の神があなたを憐れんでくれますように」
と祈ってあげる歌なのではないかという解釈です。歌詞の中に出てくる流れる涙もペテロのではなくて、ペテロと共に流す私たちの涙だとしたら・・・。

「神よ私を憐れんでください」はペテロの立場から、
「神があなたを憐れんでくれますように」は信仰者の立場から
歌っている可能性にようやく気がついた次第です。
でもこれは素人の私の解釈で、間違っているかもしれません。詳しい方がおられたら、ぜひご教示いただきたいと思います。よろしくお願いします。

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