読書記録『石の血脈』

蜂窩織炎で静養中に、何冊か読みました。
  • 半村良『石の血脈』
  • 河野 啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
  • 稲垣えみ子『魂の退社』
一部を紹介します。

『石の血脈』は結婚した頃読んだ記憶がありますが、非常に印象深かったので再読してみました。どんな話かというと、雑誌「ムー」あたりに書かれていそうな
  • アトランティス伝説
  • オリハルコン
  • 暗殺教団
  • 巨石文化
  • 石像メガリス
  • 狼男
  • 吸血鬼
  • シュリーマン
  • ロスチャイルド
などが、全て一本の糸で繋がっていて、それが今日本を舞台に蠢いている・・・というものです。
「伝奇小説」と分類されていますが、伝奇というのは何だろうと思い調べたら、ファンタジーのことだそうです。でも、私の印象ではもっとおどろおどろしく血生臭い印象です。

小説は廃工場の一角に怪しげな男たちが集まり、一人の黒装束の男を走らせて時間を計測する場面で始まります。
男は100mを6秒台で走るのですが、それを工場に盗みに入った泥棒が覗き見します。しかし、彼は6秒台で走ったなどということには気づかず、計測を終えた男たちが引き上げるのを見て自分の仕事を再開しますが、うっかり物音を立てたために黒装束の男に瞬殺されてしまいます。
見事な導入部です。

(ネタバレ)
実はこの黒装束の男は狼男で、驚異的な身体能力を持ち、ある特定の人間の言うことには絶対的に従うという「自動従命症」を患っています。そして、不思議な性病を介して人間が石化(メガリス化)し、数千年の眠りののち目覚めて不死の生命を得るという古代からの秘法を追求している教団があるのですが、近親相姦の場合には不死の生命を得る代わりに狼男になってしまうという設定です。

この教団はイスラム圏で実在した「暗殺教団」が地下に潜ったもので、それが現代の日本で大規模に活動し始め、選ばれた美貌の持ち主を石化して永遠の生命を与えようとしている、というのが物語の設定です。
人間離れしたセックス(笑)により、教祖(復活した古代人によりこの性病に感染した女性)から枝分かれする形で感染した患者たちの体は次第に変調を来し石化してきますが、石化を順調に完了させるには大量の生き血が必要で、これが昔から言い伝えられている吸血鬼伝説の正体なのです。
そして、天皇と呼ばれた有名な建築家(丹下健三を彷彿とさせます)が石化した人たちを数千年にわたって安全に保存する神殿の建築を担当しますが、冬のある日、建築現場付近でなぜか熱射病のため死亡してしまいます。小説の主人公の建築家はこの有名建築家の弟子ですが、師の秘密を知り、自分が後釜に座ろうとして自らも感染し、石化し始めます。

物語は、主人公の友人と狼男が協力して神殿とそこに眠る石化した人たち(ケルビム)の破壊を試みるところで終わりますが、こんなふうにあらすじを書いてみても、この作品の面白さは伝わらないと思います。

作者の半村良は、高校卒業後様々な職種を転々としたそうですが、その過程で得た俗世間の生きた情報(銀座や歌舞伎町の風俗など)が『石の血脈』には詰め込まれていて、読んでいて本当にリアリティを感じました。そして、これまで断片的な知識だったアトランティスや暗殺教団、シュリーマン、吸血鬼などが相互に結びつき、イキイキと動き出すのは本当に面白かったです。
ああ、そういうことだったのか、と変に納得させられてしてしまうところが、この作品の最大の魅力でしょう。

気晴らしにはもってこいの長編伝奇ロマンでした。

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