二冊の闘病記

こんな状態になると、闘病記のような本が読みたくなります。
今回は次の本を読みました。

ハルノ宵子『猫だましい』
栗本慎一郎『脳にマラカスの雨が降る』

ハルノ宵子は前にも取り上げましたが、吉本隆明の長女で漫画家です。
彼女はこれまでに大腿骨骨折、乳がん、大腸がんなどの大病を患っていて、それ以外にも自宅周辺にいる野良猫たちの病気の世話をしたり、水泳中に溺れて重体になりその後も大腸がんや視覚障害になった父親の世話や、大腿骨骨折で寝たきりの吉本の妻つまり自分の母親の看病をしたりしてきた「病気の達人」です。さらに、本人が昼夜逆転生活の大酒飲みで、病人がそんな暮らしをしていたらダメじゃないのと言いたくなる無茶振りですが、そんな壮絶な体験の持ち主が、江戸っ子風味の毒舌とキップの良さで病気と医療について書きまくった本書には、ここが痛いあそこが悪いとすぐ医者に行きたがる世の甘えん坊たちの度肝を抜くような型破りな医療体験がてんこ盛りで、少々の病気など吹き飛ばす迫力に満ちています。かくいう私も、すべり症の暗い見通しに落ち込んでいた時に、これを読んで一時的に救われた気がしたほどです。一時的ですが。
ただ、表現は乱暴で、品の良い方は卒倒するかもしれませんのでそこは要注意です。例えば、「ま○こ」「う○こ」「た○きん」などの下ネタ用語がポンポン出てきます(笑)。
でも、そこさえ乗り越えられれば、ある意味でとても深い死生観が語られ、不思議な安らぎを覚えることができると思います。一言で言えば、病気の人によく効く(効きすぎる)クスリのような本です。



栗本慎一郎は経済学者で国会議員にもなった人ですが、58歳の時脳梗塞で倒れ、その体験を綴ったのが本書です。「脳梗塞からの生還」という副題にある通りです。
Wikipediaには彼の病気についてこうあります。

1999年10月頃に脳梗塞を患った。朝起きると左半身が動かなくなり、日課のウォーキング中で道が分からなくなる、病院に行こうとタクシーに乗るも、呂律が回らず運転手に行き先が伝わらない等の症状が出た。幸い一命は取り留めたものの左半身麻痺となってしまい、リハビリに励むも中々上手くいかなかった。ある日、リハビリで左手を動かそうとすると右手が動く事に気付いた栗本は箱の真ん中に鏡を置き、箱の中に右手を入れて鏡で右手を映しながら動かし、それと同時に妻が左手を同じ様に動かすという、鏡に映った右手を左手だと栗本の脳に錯覚させるというヴィラヤヌル・S・ラマチャンドランの「ミラーボックス」によるリハビリ法を試した結果、2ヵ月後には症状が良くなり、現在はゴルフや車の運転が出来るほどに回復した。

本書には、倒れてから数日の間生死の間を彷徨った不安な気持ちについて率直に語られていて、脳梗塞で倒れるとはどんなことか、何が生死の分岐点になるのかなど、興味深く読むことができました。
ただ、この人は性格上どうしても自分を前に出したがるところがあるので、読んでいると鼻についてきます。しかしそれを差し引いても、読む価値はあったと思います。
マラカスの音がするというのは、生死の境を彷徨っていたときに脳内で響いていた不思議な音(シャッシャッシャッ)のことで、彼はこれを聞いて自分はいよいよ死ぬんだと思ったのだそうです。脳内の血流異常が引き起こした幻聴のようなものでしょう。

ちなみに栗本慎一郎はまだ生きています(83歳。もう死んでいると思っていました、スミマセン)。

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