カラスのカンちゃん
これ、知っている人は多いかもしれませんが、とても好きなお話です。
何度も読み返しては、ついニコニコしています。
私の家のベランダの前には大きなカシやコナラの立木があり、そこにカラスが巣を作って子育てしています。でも、鳴き声が悪いからと邪険にしていたので、我が家とは良い関係にありません。
この話を知っていたら、もっと優しく接したのに、と残念に思います。
奥さんができた時も、子どもができた時も、亡くなる間際にもあいさつに来て…律儀だったカラスのカンちゃん
Aさんはご主人と静かな森の中の一軒家で、暮らしておられます。お天気の良い日には、庭のテーブルで食事をしたり、お茶を飲んだり、本を読んだりして過ごします。おふたりとも在宅のお仕事をされておられたので、おふたりで過ごすことが多いのですが…。
ご主人は毎晩夜中まで仕事をされて、朝は10時頃に目覚める生活です。一方のAさんは、朝5時には活動を始められます。Aさんは、朝一番で、まずはひとりの時間をこのテーブルでコーヒーを飲みながら楽しみます。
ある日、近くの電線にカラスが1羽、止まっているのに気付きました。翌朝も、翌々日の朝も、そのカラスは電線に止まり、Aさんを観察しているようでした。
動物好きなAさんは、そのカラスに「おはよう~、お前はカラスだからカンちゃんだね!おはよう~、カンちゃん!」と話しかけるようになりました。連日Aさんが話しかけ続けた結果、ある日、カンちゃんは自分から「オッハヨウ!カンチャンー!」というようになりました。
それからは、朝はAさんとカンちゃんのふたりだけの時間が続きました。Aさんがテーブルでコーヒーを飲み、焼いたトーストを食べている間、ふたりの距離は縮まっていきました。時にはカンちゃんはAさんの椅子の背もたれに止まり、Aさんの髪を優しくくわえて引っ張ったりもしました。
パンをちぎって投げると、犬のようにキャッチすることも出来るようになりました。パン、肉や魚、煮干し、クラッカーなど、いろいろ一緒に食べました。でも、カンちゃんは、Aさん以外の人の気配がすると飛び去ってしまい、なかなか写真は撮れませんでした。
カンちゃんはAさんが飼っている猫達との相性も良く、猫と追っかけっこをして遊びました。Aさんが草刈りをしていると、手の届くところまでやってきて、一緒に草刈りしているつもりなのか、草をつっついたりもしました。
Aさんが家の中にいると、カンちゃんは窓から見える位置に止まって「オッハヨウ~!」と鳴いて、Aさんに外に出てくるように催促をしたりもしました。Aさんもカンちゃんの姿が見えないときに「カンちゃん~」と呼ぶと、カンちゃんは遠くからでも飛んできました。
カンちゃんは当初、いつも1羽で電線に止まっていたのですが、あるとき連れ合いらしきもう1羽と電線に止まっていました。どうやら連れ合いが出来たことを報告、挨拶するためにやって来たようでした。やがて「カンちゃんの奥さーん!」とAさんが呼ぶと、その連れ合いのカラスも家まで飛んできてくれるまでになりました。その連れ合いは産卵をひかえているようでした。カンちゃんはAさんからもらうごはんを、自分だけが地上に降りて拾い、電線の上で待っている連れ合いに、口移しで与えていました。そのときには、ごにょごにょ会話するように鳴きあっていたそうです。カラスも言葉を話すのですね。
しばらくすると、今度は小さい子ガラス2羽と合わせて、4羽で電線に現れました。カンちゃんは律儀な性格です。またご挨拶に来たのですね。そして、それからしばらくすると、カンちゃんはまた1羽でAさんの家にやって来るようになりました。
そんな日々が10年ぐらい続いたのですが、ある時からカンちゃんの姿を見ることはおろか、鳴き声を耳にすることも無くなってしまいました。Aさんは、カンちゃんは縄張りを変えたのだろうと考えていました。
ところが、それから数カ月経ったある日、近くの電線にカラスが何十羽も止まってカァカァ鳴いて騒いでいました。下をみると、カンちゃんが地面に倒れていました。しかも、頭や背中や、身体のほとんどに体毛が無く痩せて弱っていました。でもそれは、カンちゃんに間違いありませんでした。塀の上に飛び乗りたいけれども、飛び乗れない状態でした。何度も何度もトライするのですが、トライすればするほど次第に弱っていくようでした。カンちゃんは、自分の命が尽きる前に、Aさんにお別れの挨拶するためにやって来てくれたようでした。
Aさんは、倒れて弱っているカンちゃんをどうするべきか悩み、ご主人に相談されましたが、自然のままにしておくべきだよと言われ、少しの食べものをカンちゃんの側に置いて、家で様子を見ることにしました。電線の上のたくさんのカラスは、入れ替わり立ち代わり、3日間ずっと騒いでいました。カンちゃんの後輩達が、リスペクトしてお見送りに来たのでしょうか?
3日後の朝、電線の上のカラスも、カンちゃんもいなくなっていました。家の周りを探してみましたが、カンちゃんの姿は見つかりませんでした。そして、カンちゃんが居なくなって初めて、Aさんはとても大切なものを失ったことに気付きました。カンちゃんはAさんにとって、一生涯忘れられない友人となりました。
Aさんはおっしゃいました。「カンちゃんや今まで関わってきた動物達の生き様から、私が学ぶべきことは多いのです」。そして、Aさんは今朝も、庭のテーブルでトーストとコーヒーを楽しんでおられます。2代目カンちゃんが現れるのを待って…。
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