二冊の本から学ぶ

昨夜、家内が帰宅し、今日から明け方の猫の攻撃はそちらに向かったため、今朝は熟睡できました(笑)。でも、疲れが溜まっていたせいか、一日眠くてたまりませんでした。

最近、
 中野信子『ペルソナ』講談社現代新書
を読んでいます。
どんな本かというと、頭の良い中野信子さんが旧態依然たるジェンダー差別に満ち溢れた「学者の世界」に痛烈な毒舌を振るっている本、ということになります。
少なくとも前半は。
あまりの毒舌ぶりに震撼しながら、その痛烈ぶりに溜飲が下がるのも事実です。

ところで、その中で彼女がメンサの会員であることが述べられていました。
メンサというのは、非常にIQが高い人が入ることのできるクラブで、彼女はクソ面白くもないパワハラとセクハラの巣窟たる東京大学以外での知的交流を求めて入ったのだそうですが、ここも大したことないとあっさり否定されていました。

ただ、IQと聞いて少し心がざわつきました。
子供の頃、知能検査というものを受けさせられましたが、しばらくして数名だけが再検査となったのです。
何でも検査結果が普通でなかったので、確認のためにもう一度受けるのだと説明されましたが、再検査の結果については何も教えてもらえませんでした。
しかし、先生に「僕の知能指数はいくつだったのですか?」と聞いたら、しばらく黙っていた先生は、やがてポツンと「君の精神年齢は20歳だ」と言いました。
今思うと、結果をストレートに伝えてはいけなかったための表現だったらしいのですが、それを聞いた私は、お前は非常にませたガキだと言われたようで恥ずかしくなり、そのまま追求することはありませんでした。
知能指数が精神年齢と実年齢の比だということを知っていれば、私の人生にもまた違った展開があったかもしれませんが、いつしか忘れてしまいました。

やがて長じて知能指数の意味を知り、自分のスコアを計算し、一体この値は本当だろうかと思いましたが、そういえばあの時先生は「検査結果がおかしいので再検査する」と言っていたから、多分最初の結果が間違っていて、自分のIQはもっと低いに違いない、そうでなければ自分はもっと目覚ましい活躍をしているはずだ(笑)と結論づけました。
真相は未だ不明ですが、もしあの得点が正しければ、私もメンサの会員にはなれたと思います。

ところで、この話のポイントは、中野さんがメンサの会員との交流は思ったよりつまらなかったと結論していることで、メンサの会員なんてパズルを解くのが得意なだけだと容赦ありません。
もしそうなら、仮に私のIQが高かったとして、にもかかわらず華々しい人生を送れていない事実には十分説明がつきます。
いわゆる知能検査が測定しているIQは人間の持つ諸能力の一部に過ぎず、言葉や図形や数を自在に扱えることをもってIQが高いとしているに過ぎません。
しかし、音楽を理解し、高度な運動能力を有し、三次元空間を深く把握し、他人とうまく心を通わせることができ、自分の心の内面を省察でき、世界の様々な事物に関心を持てるのも、また広い意味での「知性」のはずです。

これに関して、最近深い感銘を受けた本があります。
 恩蔵絢子『脳科学者の母が、認知症になる』河出書房新社
この本は、私がこれまで読んだ認知症に関する著述の中で、最高に面白く、最高に深い内容を含んでいました。
認知症に不安を感じる人は、とにかく一読されることをお勧めしたいと思います。
女性の著者らしい細やかで具体的な記述と、脳科学者らしい論理的な視点で描かれた認知症の姿は、驚くとともに読者の不安を和らげてくれると思います。

例えば、認知症になったらもう自分が自分でなくなるのだから、安楽死させて欲しいという意見をよく耳にします。
現に安楽死が法律で認められているオランダでは、自分がもし認知症になったら安楽死させるよう意思表示する人が増えていて、問題視されているそうです。
本書の著者は、このような考え方に反対し、皆んな「強い自分」だけを自分と思い「弱い自分」を許せないと思いがちだが、それは幻想ではないかと問題提起しています。
その反例もいくつか提示し、
 今現在幸せな状態にある人を、覚えてもいない事前の意思表示に従って安楽死させても良いのか?
と指摘しています。これは重い問題提起であると思います。

そして圧巻は最終章「感情こそ知性である」です。
少なくとも私は、これまでの大きな誤解:
 感情は脳の旧い部分で生まれる動物的な情動、知性は新しい皮質で生まれる合理的な思考
を糺され、
 感情も記憶され、それは認知症になっても損なわれず、その人らしさを残す
 知性では決断できないことを感情は決断でき、感情がないと理性は働かない
など、多くを学びました。

 認知症になっても感情という知性は残る。

このことの意味をよく考えたいと思います。
それに成功すれば、認知症になった愛する人を深く理解することができるのではないでしょうか。
そしてこれは、IQが高いだけでは素晴らしい仕事を成し遂げることはできないことと、どこかで深く関係しているように見えるのです。
感情を持たないAIが万能ではないことも、当然なのかもしれません。

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