コブシが咲いた/トムラウシ遭難本の感想

ベランダのコブシの花が綺麗に咲きました。実は例年、ほとんどの花芽が鳥に食べられてしまうので、なかなか姿が拝めないのです。
今年はひとまず安心です。
(すでにいくつかの花芽がやられていますが・・・)

我が家のコブシの花

さて、『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』の読後感です。

おさらいしておくと、これは2009年に起きた夏山登山史上最悪の遭難事故で、15人のパーティのうちガイドを含む8人が亡くなったものです。
原因については本書で様々な角度から検証されていますが、私の感想としては

 登山者が自立していない

に尽きると思いました。

このパーティは登山ツアーと呼ばれるツアー会社の企画で集められた人たちで、要するに寄せ集めのにわか登山隊です。そこに、そこそこ経験はあるがリーダーシップにかける山岳ガイドがリーダーならぬ「添乗員」として参加し、彼らに悪天が襲いかかってにわか登山隊のあらゆる弱点が露わになり、その結果多くの死人が出たというものです(リーダー本人も死亡)。

天候はたしかに激しい風雨を伴う厳しいものでしたが、この地域では決して例外的な悪天ではなく、参加者たちの体力もある程度スクリーニングされているのでそれほど弱い人は含まれていません。
今の私は彼らの中に置かれたら真ん中あたり(の体力)ではないでしょうか。
なのに遭難してしまったのは、ひとえにリーダーの判断ミスが原因で、それが全員を低体温症という当時はまだよく知られていなかった状態に追いやったのです。

私も古い人間なので、当時こういう症例は「疲労凍死」というものだとばかり思っていましたが、夏に凍死するのにはたしかに違和感がありました。
しかし実際には、夏山遭難の多くが低体温症による気象遭難なのですね。

上にリーダーの判断ミスと言いましたが、これには二つあります。
一つは悪天なのに出発してしまったこと。
もう一つは最初の犠牲者が出た時、その人のケアにかまけてパーティ全体に目配りすることができず、いたずらに事態を悪化させたことです。
素人の私から見ても、とてもお金をもらって行うリーダー業務とは思えない杜撰さです。

しかし、それ以上に気になったのが先に述べた登山者の自立問題です。

そもそもなぜこのような登山ツアーに参加するかといえば、登山計画をたて、装備を揃え、宿と交通機関のチケットを予約しといった細々とした面倒な事務的作業を全部やってもらえるから楽、ということのようです。そして現地では、ただリーダーに言われるがままに歩くだけ。
参加者の中には地図を見ておらず、自分が今どこを歩いているのかわからない人もいたそうです。
これでは何か起きた時、他人に依存しているために自分で判断することができず、いたずらに自他の生命を危険に晒すことになってしまいます。
事実、このパーティのリーダーが倒れてしまったお客の介抱にかまけている間、強風の吹き荒れる風の通り道で彼らは2時間以上ほったらかしにされていて、それがために次々と低体温症にやられていきました。

なぜ、リーダーに抗議し、自分の命を守るために自分の判断で行動しなかったのでしょうか。
また、すでに暴風雨下の避難小屋を出発する時点で反対の声をあげる人が一人もいなかったのも謎です。
他人任せ、リーダー任せで自立していない登山者だったということです。

ちなみに、よく遭難者のザックから使われていなかった防寒具や乾いた衣類、テントなどが出てきた、なぜこれらを活用しなかったのかという報道を目にしますが、現場を知らない記者の作文です。
考えてみて欲しいのですが、今回の遭難場所のような広い台地で横殴りの風雨に晒され続け、全身びしょ濡れで手足が痺れてきたような状況下で、どうやって着ている衣類を全て脱ぎ、雨に濡れないようにしながら乾いた衣類に着替えることができるでしょうか。
そういう体験をしたことがないから、適当なことが書けるのです。
そこまで行ったらおしまいだから、そうなる前に適切な行動を取れるのが自立した登山者であり、そうなるにはそれなりの経験値が必要なのです。

なお、この時強引に出発した理由というのが、同じツアー会社の別のパーティが続けて同じ狭い避難小屋を利用するため、残留できなかったという事情も指摘されていました。
さらに、日程変更には帰りの航空機の切符の取り直しや宿の追加予約に伴う出費など、ツアー会社の経営上の問題も絡んでいたようで、それがリーダーの決断を曲げてしまった可能性もあるようです。

偶発的な危険のある登山を団体旅行と同じビジネス感覚でやるのも問題と思いますが、調べてみたら現在でも全く同じツアーが商品として売られていました。
参加費用は、大体一人15万円プラスくらいのようで(千歳空港で待ち合わせ)、仮にこの事例と同じ15人の参加者がいればそれだけで225万円プラスの売り上げとなります。バス代と宿代、それにガイド報酬を払っても、かなりの利益が出ると思いました。

何もなければ、登山ツアーは美味しい商売なのかもしれませんが、トムラウシではそうは問屋が卸さなかったのです。

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