『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

終戦記念日までには読み終えようと思ってコツコツ読み続け、とうとう読了しました。大変な本を読んだ、というのが第一印象です。

 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』新潮文庫(小林秀雄賞受賞作)

加藤さんは東大文学部の教授で、これは彼女が栄光学園の歴史研究部の部員さんに年末年始の休暇を利用して五日間の講義を行った記録だそうです。
相手は中高生だから相当やさしい語り口だろうと思って読み始めた私は、正直頭に一発ガーンと喰らいました。さすが栄光の歴研、そんじょそこらのおじさんには歯が立たない内容を軽々と論じている姿に度肝を抜かれました。

で、内容については、ぜひご一読されたし、というにとどめておきます。
これほどの近代戦争論は他になかなかありませんから。
騙されたと思って読まれても損はしないと思います。

毎年めぐってくる終戦記念日ですが、今年は少し違って見えるとしたら、それはこの本のおかげです。
中高生に五日間講義したというだけの内容ですから、日清日露から太平洋戦争までの全てにわたってバランスよく論じているわけではありませんが、私は念のため半藤一郎の『昭和史』を横に置いて、同じ内容が両書でどのように扱われているか時々チェックしましたが、大きな齟齬は全くありませんでした。
その意味からも、あまり偏った記述はないだろうと思われます。

タイトルのそれでも、日本人は「戦争」を選んだという指摘について、その理由がよくわかったか、と問われれば、本書には答えが示されているわけではなく、ただ判断するための材料がよく整理されて並べられているので、後はそれぞれが自分の頭で考えることだというのが本書の言わんとするところだろうと思います。

印象に残った箇所を2点。

一つは満蒙開拓団は、世界大恐慌で養蚕では食って行けなくなったため、人減らし目的で補助金を餌に半ば強制して村人を送り出したのが実態だったそうですが、このような政策に断固反対した村長がいたりしたそうで、そういう村では満州でたくさんの犠牲者を出さずに済んだそうです。

また、満州に移住した開拓団でも、賢明なリーダーに率いられたグループは中国人と良い関係にあり、敗戦後の日本への引き揚げでもほとんど犠牲者を出さずに日本に帰ることができたそうです。

加藤先生はこれを評して

歴史の必然に対して、個人の資質がいかに大きな影響を持つか

と記しています。少し勇気付けられます。

もう一つは捕虜の扱いで、捕虜となったアメリカ人の死亡率のデータを取り上げ、ドイツでは1.2%に過ぎないのに、日本では37.3%に上ったことを指摘しています。日本軍の捕虜の扱いが突出してひどいことを示していますが、これを評して

自国の軍人さえ大切にしない日本軍の性格が、どうしても、そのまま捕虜への虐待につながってくる

と述べています。
特に南方戦線やインドシナ戦線では無謀な作戦で大半の兵士が病死か餓死で亡くなった事実がありますから、これはその通りと思います。

どちらも深く考えさせられる点でした。

今日は病院に行き、薬を処方してもらいました。
帰りを1キロほど歩きましたが、息苦しくなるような暑さで参りました。


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