串田孫一「音楽の絵本」

学生時代の土曜の深夜、FM放送で「音楽の絵本」を聴くのが私の憩いのひと時でした。

テーマ音楽のヴィヴァルディの「四季」(冬の第二楽章)が流れ、パーソナリティの串田孫一さんが自作の散文詩のようなものを読み上げ、それからその解説的なエッセイとクラシック音楽が続くという構成で、私はそのやや退屈な品の良さになぜか惹かれるものがあって寮にいる時は欠かさず聴いていました。
いうならば、コーヒーに対する紅茶のような味わいの番組でした。

串田さんは東京外語大の教授ということで、いかにもそれらしい知的な雰囲気の語り口だったと思います。調べてみると彼は由緒ある家に生まれ、父親は三菱銀行の会長、奥さんは旧侯爵家の出です。
私の感じた品の良さ(&物足りなさ)は、このような彼の育ちの良さから滲み出てきたもののようです。

ところが私が登山をするようになったある時、谷川岳の幽の沢(一の倉沢と並ぶ大岩壁)の初登攀の記録を読んでいたら、このルートは東京高校の串田孫一らによって拓かれたとあり、びっくりしました。
彼は音楽や文学の人であっただけでなく、先鋭的なクライマーでもあったのです。
そして詩人の尾崎喜八さんと一緒に雑誌『アルプ』を創刊したりもしています。



(東京高校は一高と並ぶ東大教養の前身で、彼はそこから東大の哲学に進んだ。)

私の山仲間は楽しいがワイルドで下品な人柄の人が多く、たとえばF君などはテントの中で食事していると
「クソを食ってる時にカレーの話をするな」
などと言ってみんなを笑わせるし、微妙な岩のルートを攀じている仲間に下から
「握るところがなければお前のヨシ坊を握れ」
などと下品な声をかけたりしました(ヨシ坊・・・わかりますね(笑))。

しかし、音楽や文学に興味のある人は山屋には少ないらしく、正直なところ彼らと付き合っていてもどこかに私は物足りなさを感じていました。
反対に音楽や文学好きな友人は、ほぼ例外なく運動嫌い、アウトドア嫌いで、登山にのめり込んでいく私とは次第に疎遠になっていきました。
串田さんのような友人がいたらなあ、と当時思ったものです。

「音楽の絵本」については、放送された番組の幾つかが今でもYouTubeにアップされているので、それを以下に貼り付けておきます。テーマ音楽である「四季」冬の第二楽章は、本来は弦楽合奏を背景にバイオリンの独奏が奏でる優雅な曲ですが、この番組の演奏ではブロックフレーテが使われています。
懐かしいです。




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