『世界最凶都市ヨハネスブルグ・リポート』
南ア最大の都市ヨハネスブルグに行ったことのある日本人はあまり多くないと思います。
とにかく距離がありますし、何よりその治安の悪さが喧伝されているからです。
いわく、
- 人口あたりの殺人件数はダントツで世界一
- 信号で停車すると襲撃されるので、赤信号でも突っ切るべし
- 腕時計をつけていると手首ごと切り落とされて強奪される
- 何も持たないから大丈夫と思い外出したら、全て強奪されて裸で帰ってきた
- 都市中心部で強盗に遭う確率は150%(歩けば100%強盗に遭い、その後安全地帯に帰り着くまでに再び遭う確率が50%)
等々。
私がヨハネスブルグを訪れたのは、90年代の終わりごろで、例のアパルトヘイトがマンデラによって廃止されてから日も浅い頃でした。もちろん、そんな危険な市内に滞在するわけにはいかず、ホテルも仕事の打ち合わせ場所もヨハネスブルグの北側に隣接するサントンと言う白人居住区でした。
印象に残っているのは、ヨハネスブルグの市内を私の会社の現地事務所のお抱え運転手(黒人)に案内してもらった時のことで、
- たむろしている浮浪者とは決して目を合わせない
- 物売りが来ても無視しろ
- どんなことがあっても決して車外に出ない
などの注意を受けてから出発したので、とても緊張したことを覚えています。
子供の頃の教科書の写真で知ったヨハネスブルグは高層ビルの林立する大都会でしたが、現実の高層ビルは廃墟のようで、例えばカールトン・ホテルはシャッターが下り、それにもたれてヤクをやっているらしい目がトロンとした浮浪者が大勢いて、その前の歩道には物売りが雑多な品を並べていて、こちらの方に鋭い視線を向けていました。
でも、赤信号を突っ切るような運転はしなくても大丈夫でした。
また、マンデラの生家がある郊外のかつての黒人ゲットー「ソウェト」にも連れて行ってもらいましたが、何より驚いたのはバラックの立ち並ぶ一帯の道路や空き地が真っ白だったことです。
全て紙ゴミでした。
現地事務所のO所長が、「ヨハネスブルグにたむろしている黒人は、あれは人間ではない。信じられないくらい残酷で、獣よりもっと始末に悪い」と吐き捨てるように言った言葉もよく覚えています。
腕時計を強奪するのに手首を切り落とすと言う噂も本当だろうと思わせる迫力でした。
そんなヨハネスブルグもサッカーのワールドカップが行われ、少しは良くなっただろうかと思っていたら、こんな本を見つけました。
小神野真弘『世界最凶都市ヨハネスブルグ・リポート』
早速買って読み始めました。
冒頭、手榴弾が投げ込まれた時の対爆姿勢をとる訓練の様子から始まり、一気に引き込まれて終わりまで読んでしまいました。
著者は1985年生まれで、このリポートは2018年と2019年の調査結果だそうですが、行動力と言い問題意識と言い筆力と言い、その若さでよくここまでやれるなと感嘆しました。
中身ですが、ソウェトのマンデラの家があるあたりは立派な舗装路が走っている・・・などの記述を読むと、明らかに私の訪れた頃より良くなっているところもあるのですが、全体として見れば治安は少しも改善されておらず、むしろ深刻化している面もあるような印象を受けました。
南アの現在が手にとるようにわかる出色の一冊だと思います。
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